興味がない人に頑張ってモノを売り込んだって買ってくれるわけないじゃん——。というのは小学生でもわかるマーケティングの基本のキです。
「だからこそ興味を持ってもらえるように仕向けるべきです!」なんてことを恥ずかしげもなく言ってしまう人もまたマーケ音痴です。ただし、その先に得られるモノの価値をしっかり理解したうえで、あえてその血みどろのイバラの道を選ぶのだとしたら、それは“漢気”マーケターです。
コーセーが興味深いサービスを6月からスタートさせています。テーマごとに組み合わされた3つのメイクアップアイテムをセット販売する「Mymits(マイミッツ)」というサービスです。
出典:Mymits(マイミッツ)特設サイト https://maison.kose.co.jp/site/p/mymits.aspx
アンバサダー:乃木坂46(遠藤さくら/賀喜遥香/井上和/筒井あやめ/川﨑桜/菅原咲月)
例えば、以下のような感じでテーマにあわせて同社のブランドを横断したアイテムが3つずつセットアップされているようです。
- 「すっぴん気分Mymits」セット:
エスプリークの美容液ファンデ+ブレンドベリーのクリームハイライト+米肌のリップティント - 「お仕事Mymits」セット:
コスメデコルテのコンシーラー+ジルスチュアートのアイシャドウ+ブレンドベリーのリップグロス
テーマのバリエーションも幅広く、シーン(「トラベル」「サク飲み」など)、雰囲気(「オトナめ」「クール」など)、気分(「ハッピー」「ときめき」など)、初心者(「パパッと」「スクール」など)といった具合に、さまざまな切り口からの自分にあった選びかたができるようになってます。
なお、このセットはコーセーオンラインECサイト「Maison KOSÉ」のみでの販売とのことです(都内の直営コンセプト店2店舗のみでは限定的に扱いがあるようですが)。これもこの施策の戦略をヒモ解く1つのポイントとなります。
ちなみに、こういった売り込みのしかたが新しいかどうかというと・・・とくに新しくはないと思います。
昔からこういったテーマにあわせたオススメ組み合わせ提案はありましたし、プリセット販売もありました。さらに言うと、これってそもそも美容部員さんたちが日ごろからやってることそのものだったりもします。
そんなありきたりな手法を、少し見せかたを変えて、そして規模感を持たせて展開させることで、新規性の高いサービスっぽく見せるスキームと言えます。いわゆる「枯れた技術の水平思考」ってやつですね。
化粧品という業界の特性や、顧客層のマインド特性を考慮すると、非常に理にかなった戦略であると思います。化粧品って新しすぎることやると失敗しがちなんですよねぇ。
このサービスはTVCMも展開されていたりして目にした方も多いかと思いますが、アンバサダーには乃木坂46が起用されてますよね。
ただ、坂道グループの中での女性ファンの比率で言うと、櫻坂46のほうが女性からの支持率は高いんです。化粧品会社がコラボするなら、ふつうに考えたら櫻坂じゃない?とも思っちゃうわけです。
出典:メゾンコーセー公式Youtube「Mymits、はじまる」篇CM(乃木坂46 遠藤さくら/賀喜遥香/井上和) https://youtu.be/J-Bv7rHF7OQ
まぁ、櫻坂(元・欅坂)にはいろいろとネガティブな話題・印象もくっついてたりするので、イメージ的な部分もあったのかもしれませんが。
でも、だとしたらムリして坂道グループである必要もないわけじゃないですか。女性からの支持率がもっと高いアーティストなんてほかにもたくさんいるわけですから。
その背景の1つには、メンズ需要を意識したところもあるのでしょう。見てのとおり、メンズ向けの提案もしっかり組み込まれております。
なお、ここでいうメンズ需要って、乃木坂ファン層の話だけではないです。化粧品への関心があるけれどなかなか一歩が踏み出せない人とか、セルフ系化粧品は買えるけどカウンセリング(美容部員さんのいる売場)はまだ行きづらいよね、という人たちが意識されています。そんなメンズたちにの一歩を後押しする施策としての位置づけもあるはずです。
そう考えると、コアなファン以外にも十分な知名度があり、男女比率も比較的バランスのいい乃木坂が起用された経緯も納得感があります。このあたりの購入プレゼントからもそんな戦略が垣間見えます。
出典:Mymits(マイミッツ)特設サイト https://maison.kose.co.jp/site/p/mymits.aspx
とはいえ、やっぱりメインとして狙っているのは女子たちです。メンズはあくまでサブ的な狙いどころにすぎません。では、このサービスが女子たちへのどういうアプローチ戦略を敷いているのか、ヒモ解いてみます。ザックリまとめるとこのあたりでしょうか。
- コスメ興味いまいち層の獲得
- “商店街”への誘客
- 無理ゲー攻略
1つめはシンプルです。コスメにそれほど興味がない人たちは、その情報収集や選ぶことに労力をかけたくありません。メーカーオススメのセットがあるならば、「じゃあ、それでいいかな」とおまかせしたくなっちゃう人たちです。
そんな人たち向けに、小難しい話は抜きにして、雰囲気や気分でオススメのコスメのセットがサクッと調達できるサービスとなります。乃木坂の女性ファン層とも相性がよさそうなコンセプトです。
2つめの「商店街への誘客」は、コーセーグループオンラインショップ共通アカウント「KOSE ID」の存在がポイントになります。
このKOSE IDを一度持つと、このMymitsの購入窓口であるMaison KOSÉに限らず、コスメデコルテ、雪肌精、ジルスチュアートなどなどのコーセー系ブランド直販サイトでもすべて共通で買い物ができるものです。「コーセー商店街」で自由に動き回れる身分証ってところですね。
この説明だけだと、便利なIDですねぇ!って話ですが、これをつくってもらうまでが大変なんです。とにかく大変。だって、コーセーの化粧品ってべつにコーセー直販サイトから買わなくたってネット上で購入できる場所なんていくらでもありますから。
アマゾンでも、楽天でも、どこでも買えてしまいます。そして今どきの若者でそれらECサイトアカウントも1つも持ってないなんて人はほぼいません。しかも、ポイント還元などを加味したら公式より割安よね、なんてこともザラだったり。
そんな中で、彼女らにとってわざわざ個人情報を登録してまでKOSE IDをつくることのインセンティブってなんなの?という話になってしまいます。
商店街に一度入ってさえもらえれば、買い物してもらえるチャンスは十分にあると思いますが、そもそも商店街に入ってもらうまでが一苦労なのです。
そんな商店街入り=KOSE ID作成のキッカケとしても、このMaison KOSÉ限定のMymitsサービスは位置付けてあるはずです。ここでしか買えないセット、ここでしかもらえない特典品、そういったエクスクルーシブ性があってはじめて行動を促すことができるのです。
1~2までのポイントは比較的わかりやすい狙いどころだと思います。そして、3つめの「無理ゲー攻略」についてがこのサービスのキモだったりしそうです。
ところで、このMymitsセットたちを見ていてちょっと気になった点があるのです。それは...